有価証券報告書を使ったグローバル系企業の研究(丸紅)
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注)この記事は企業研究をするための1つの方法をご案内することを目的にしているため、企業の財務状況には触れていません。また、例示企業は無作為に選択しており、企業の良し悪しについて著者の意見を反映しているものではない点はご了承ください。
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今回は三井物産、三菱商事、伊藤忠商事に続いて同じく大手商社の丸紅の研究をしてみます。
まずは金融庁の情報開示システムのEDINETで丸紅株式会社の有価証券報告書をチェックします。令和2年3月31日期の有価証券報告書が最新のものになります。

★会社沿革
有価証券報告書より抜粋:
[創立の経緯]
当社の前身は1858年の創業に始まるが、㈱丸紅商店、三興㈱を経て設立された大建産業㈱が戦後、過度経済力集中排除法の適用を受け、同社の企業再建整備計画に基づき、商事部門を継承する第二会社として設立された。
本格的に今の丸紅という会社が立ち上がったのは戦後であることが分かります。高度成長期をリードした会社といえるのでしょう。
★事業の内容
有価証券報告書より抜粋:
当社及び連結子会社は、国内外のネットワークを通じて、ライフスタイル、情報・不動産、フォレストプロダクツ、食料、アグリ事業、化学品、電力、エネルギー、金属、プラント、航空・船舶、金融・リース事業、建機・自動車・産機、次世代事業開発、その他の広範な分野において、輸出入(外国間取引を含む)及び国内取引の他、各種サービス業務、内外事業投資や資源開発等の事業活動を多角的に展開しております。
他の大手商社とビジネスユニットの紹介の順序を気にしてみます。丸紅の場合、ライフスタイル事業、情報・不動産と始まっていますね。海外ビジネスに関わっている私的には丸紅は電力などのエネルギー事業に強いというイメージがありました。私が学生だったらライフスタイル事業については詳しく聞いてみたいと思います。
★経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
有価証券報告書より抜粋:
(1)経営環境 当社グループを取り巻く経営環境を見ますと、これまでにない大きな変化、不確実な世界が到来しております。社会・人々の価値観の変容、デジタル革命といわれる技術革新の加速、産業構造の水平化・複層化、新たなエコシステムの出現等、これまでの既成概念のディスラプションが至るところで起こる時代であり、当社グループにとって機会と脅威が同時に到来しております。変化は成長オポチュニティとなる一方で、既存ビジネスモデルは陳腐化リスクにさらされており、これまでのように商品軸をベースとするアプローチだけではもはやソリューションは作り出せなくなると考えております。
ここは丸紅の経営環境の認識が書いてありますが、今の時代をよくあらわしていると思います。「不確実な世界」とは興味深い表現ですが、的を得ていますね。こういった環境はチャンスにもピンチにもなるということですが、丸紅や商社に限らず、これからの大きな変化に対応できない企業や人は脱落してしまう時代になるでしょう。10年、20年後の世界を想像して自分の道を決める必要のあるということなのだと思います。
有価証券報告書より抜粋:
(2)新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響について 新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、広範な分野において事業を多角的に展開する当社グループにも様々な影響を及ぼす可能性があります。金融・リース事業や輸送機関連ビジネス、石油・ガス開発、鉄鉱石、石炭、銅鉱山開発等の事業は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を複合的に受けることを免れることは難しい見通しです。一方で、電力・インフラ事業等の安定収益型事業やアグリ事業・食料関連といった生活に欠かせないライフライン関連事業は安定的な収益基盤として当社の業績に貢献し、化学品、エネルギー等、産業全体を支えるトレード事業も商量減少による減益は避けられないものの収益貢献が継続する見通しです。これらの見通しは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が、翌連結会計年度の上半期中にピークを迎え、その後徐々に収束に向かうものの、世界経済・景気が回復基調に戻るには相当の時間を要する見込みであること、具体的には、2020年度の下半期以降においても緩やかな回復に留まり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が、2021年度まで影響が残るという想定に基づくものです。
丸紅も他の企業と同じくコロナウイルスの影響は少なくないと考えていることが分かります。2021年度まで影響が残るとありますが、おそらく他の企業も同じように考えているのだと思います。そういった場合、2022年以降(コロナウイルスの収束後)にどういったリカバリープランを考えているのかが気になるところです。丸紅のこれからの計画をみてみましょう。
有価証券報告書より抜粋:
3)会社の経営の基本方針 当社グループは、丸紅グループの在り姿「Global crossvalue platform」を定めるとともに、経営戦略の基本方針「2030年に向けた長期的な企業価値向上を追求する」を明示した3ヵ年の中期経営戦略「Global crossvalue platform 2021」(以下、GC2021)を策定し、2019年度よりスタートしております。
丸紅グループの在り姿「Global crossvalue platform」
・時代が求める社会課題を先取りし、事業間、社内外、国境、あらゆる壁を突き破るタテの進化とヨコの拡張により、社会・顧客に向けてソリューションを創出します。
・丸紅グループを一つのプラットフォームとして捉え、グループの強み、社内外の知、ひとり一人の夢と夢、志と志、さまざまなものを縦横無尽にクロスさせて新たな価値を創造します。
この部分は参考になりますね。丸紅が求める人材が見えてきます。また、伊藤忠商事の企業研究でも触れましたが、丸紅も「タテの進化とヨコの拡張」と書いてあるように丸紅もこれまでのタテのビジネスユニットに横ぐしを刺していくことが大切な課題であると認識していることが分かります。
有価証券報告書より抜粋:
(4)中期経営戦略「GC2021」の修正について 当連結会計年度の大幅赤字決算により財務基盤の早急な回復が必要になったことに加え、上述の通り新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により経営環境が大幅に悪化したことから、今後、当社グループの事業活動への影響が長期化することを覚悟し、世界各国のグループ社員、顧客・パートナーの安全確保を第一に、経営基盤の強化・再構築に徹底的に取り組むべく、2020年5月7日に以下の<GC2021基本方針>及び<株主還元方針>を公表しております。
ここからは直近の赤字決算というのが会社にとって大きな影響があったのだということが分かります。大型の投資に関する減損はどの商社でも起こりうることですが、こういったピンチをどのように乗り越え将来の成功につなげていくのかといったことを聞いてみるのも良いかもしれません。
★事業等のリスク
個別の案件には多く触れていませんが、それぞれのビジネスに関するリスクを詳細に有価証券報告書に記載しています。こういった記載はそれぞれの業種の課題がまとめられているので、異なる業種の企業研究の参考になります。商社の有価証券報告書は個別企業の研究とともに業界研究にもあるのでお勧めです。
いかがでしょうか。企業のOBに会う前や面接の前にその企業の読んでおくだけで心構えがずいぶん違ってくると思います。いくつかの企業の有価証券報告書を読んでいると業界の共通の課題などもみえてくることがあります。これからも有価証券報告書をみていきましょう。
Have a good life!