有価証券報告書を使って企業のことを調べよう(電通グループ)
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注)この記事は企業研究をするための1つの方法をご案内することを目的にしているため、企業の財務状況には触れていません。また、例示企業は無作為に選択しており、企業の良し悪しについて著者の意見を反映しているものではない点はご了承ください。
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今回も有価証券報告書で企業研究をしてみたいと思います。今回は学生に人気のある広告代理店の電通を取り上げてみたいと思います。広告代理店は常に人気の就職先の1つですが、目まぐるしく変化する業界でもあるので、将来性が気になりますね。有価証券報告書にはその答えがあるか確認してみましょう。
まずは金融庁の情報開示システムのEDINETで電通グループの有価証券報告書をチェックします。決算期の変更があったようで、令和元年3月31日期の有価証券報告書が最新のものになります。

★会社沿革
創業は1901年と歴史のある会社ですが、会社沿革をみて最近では2つの重要なポイントに気が付きます。1つ目は2013年に英国の大手広告代理店のイージス社を買収しています。現在の電通グループの海外事業はこのイージス社の傘下でおこなわれています。社運をかけた買収といえるでしょう。2つ目は2020年から完全持ち株会社制度に移行しています。大きな改革だと思いますが、こういった経営判断に至った理由は何にか気になるところです。この後の「事業の状況」の部分でその理由が触れられています。

★事業の状況
会社沿革でも気が付いたように最初に2020年1月1日から持株会社方式に移行したことに触れています。以下、有価証券報告書からの引用です。
「社員ひとりひとりが、グローバルレベルで組織の垣根を越えて多様な視点を持ち寄りオープンかつフラットに繋がることで、イノベーションを活性化すること。さらに、そうした人材が当社グループ内だけでなく、外部の様々なパートナーと柔軟にチームを組むことで、顧客や社会の課題に対して、新しい価値を次々に提供していくこと。純粋持株会社「電通グループ」は、そのような多様性に富んだ自由闊達で能力本位のグループ文化を醸成するために、グループ全体のガバナンス機能を担うに留まらず、価値創造およびイノベーション創発に取り組む全てのグループ内の個社・個人をエンパワーする役割を担う「チーミング・カンパニー」として、グループ全体を下支えします。「チーミング・カンパニー」としての初年度にあたる2020年は、組織の壁を超えた柔軟なチームづくりを行う環境の整備、事業領域拡張や新規事業立ち上げの機会の提供とサポート体制づくり、イノベーションを生み出すアイデア・エグゼキューション・マネジメントの能力を育む機会の提供、などに重点的に取り組みます。」
電通のような大きなグループになるとたくさんの関係会社があり、以前はそれぞれの関係会社でビジネスを行っていたと思います。持株会社制度に移行することでそれぞれの関係会社間の重複などをなくし、経営判断を迅速に行うことができるメリットがあります。これからは電通グループが一丸となってビジネスに取り組んでいこうという強い意志を感じます。同時にこういった大きな改革をすることになった背景にはビジネス環境の大きな変化に対応していかなければならない危機感のようなものも感じます。会社が大きな岐路にあるのではないかと思います。そういった会社の再出発をバックアップすることができる人材であるかアピールする必要があると思います。
また、国内事業と海外事業について書かれています。先の売り上げの比率をみると分かりますが、英国のイージス社を買収したことで売上全体の約40%が国内、60%が海外となっています。海外事業が大きくなっているため、イージス社の買収を成功させることが電通グループの今後を左右するのではないかということが分かります。この部分は会社の事業について理解を深めることができる部分です。

★事業のリスク
このパートはどの会社の有価証券報告書にもあるのですが、電通グループの有価証券報告書は会社に大きな影響を与える可能性のあるリスクを詳細に記載しています。コロナウイルスによるオリンピック開催可否に関するリスク、広告業界の環境変化に伴うリスクなど、抽象的な表現でなく分かりやすく記載されています。会社にとって超えるべきハードルがあるのだと感じる方もいるかもしれませんが、取り組むべき課題が見えているということは良いことだと思います。ここも熟読すべきパートですね。自分自身がこういった課題の解決に貢献できるかどうか、アピールポイントになると思います。

私が電通グループの有価証券報告書をみて感じたことは以下の2点です。
① 英国のイージス社の買収後のビジネスを成功させること
すでに書いている通り、売り上げの約60%を占める海外事業はイージス社を中心に行われています。日本企業は海外の大企業を買収した後に被買収企業をうまくコントロールできずに買収をうまく生かせないことがよくあります。有価証券報告書の役員をみるとイージスグループの代表者は元電通グループの米国事業の責任者がなっていることが分かります(イージス社の旧経営陣ではない)。これが吉と出るか凶とでるのか。電通の良さとイージスの良さをうまく融合させ、ビジネスを成長させていけるのかが、注目されます。
② 広告業界の変化に対応すること
SNSなどにより、広告やメディアのスタイルも大きく変わってきています。これは従来の広告ビジネスからの脱却が求められることを意味します。また、最近はデジタル庁の創設や脱ハンコ文化などが話題になっていますが、日本のデジタリゼーションは決して進んでいるとはいえません。これからの日本に求められる変化に電通グループがどのように貢献していけるのかがポイントになると思います。イージスグループの持つ進んだデジタル技術などをうまく日本国内のビジネスに取り入れることができれば買収の相乗効果も見込めるかもしれません。将来性のあるベンチャー企業も出てきているので大企業は危ないという人もいますが、私はそうは思いません。長い間培った経験や大きな資金力には優位性があり、大企業にしかできないことは多くあります。
いずれにせよはっきりと言えることは、電通グループには華やかな会社で働けるという軽い気持ちで入社することはできないということです。大きな時代のうねりに立ち向かっていける、強い気持ちをもった人であるべきかもしれません。
これからもいろいろな日本企業のことを調べていきましょう。
Have a good life!